目標達成のために不可欠な力
GRIT(やり抜く力)とは?
GRIT(グリット)は、目標に向かって諦めず努力を続ける力、「やり抜く力」と訳される心理学の概念です。
アメリカの心理学者アンジェラ・ダックワース博士が提唱したもので、彼女の研究では、成功を収める人には共通して「情熱(Passion)」と「粘り強さ(Perseverance)」が備わっていることが示されています。
この2つを統合したものがGRITです。
ダックワース博士が最初にGRITの重要性に気づいたのは、学校や軍事アカデミー、ビジネスの世界などで、学力や才能だけでは説明できない成功例を観察したことからです。
成功する人々は、知能や才能以上に、困難な状況でも諦めない「持続力」を持っていました。
この持続力こそがGRITの本質です。
GRITを構成する2つの要素
GRITは以下の2つの要素で構成されています。
① 情熱(Passion)
情熱とは、自分の目標に対して強い関心を持ち続ける力のことです。
単なる一時的な興味ではなく、長期間にわたり集中して目標を追求する姿勢を指します。
情熱の重要性
長期的な目標に対する情熱がなければ、途中で挫折しやすくなります。
情熱があることで、困難な状況でも「なぜこの目標に取り組むのか」という意義を見失わずに努力を続けられます。
情熱を持つ例
・プロのアスリートが何年も練習を重ねてオリンピックを目指す。
・科学者が10年以上をかけて画期的な研究成果を出す。
② 粘り強さ(Perseverance)
粘り強さとは、挫折や失敗を経験しても、目標に向かって努力し続ける力です。
粘り強さがある人は、困難や批判に直面しても諦めず、改善を重ねながら前進します。
粘り強さの重要性
多くの人は挫折を経験するとモチベーションを失いがちですが、粘り強さがある人は失敗を学びの機会と捉え、行動を続けます。
粘り強さを持つ例
・起業家が失敗を重ねても新しい事業に挑戦し続ける。
・学生が試験に落ちても勉強を続け、次回に合格を目指す。
GRITが注目される理由
現代社会では、短期的な成果を重視する傾向が強い中で、GRITは長期的な成功を支える重要な要素として注目されています。
以下はその理由です。
① 才能や知能を超える成功の鍵
ダックワース博士の研究では、成功は知能や才能だけで決まらないことが示されています。
たとえば、学業成績やキャリアの成功において、GRITはIQ以上の予測因子となる場合があります。
研究例
① アンジェラ・ダックワースの初期研究
ダックワースとその同僚たちは、GRITが成功に与える影響を複数の場面で調査しました。
研究1:ウェストポイント士官学校
目的:GRITが新入生の厳しい訓練課程での継続性に影響を与えるかを調査。
方法:ウェストポイントの入学試験で測定される学力(SATスコア)や体力試験と比較し、GRITスケールを用いて粘り強さを評価。
結果:GRITは他の指標よりも「脱落しないこと」と強く関連しており、高いGRITスコアを持つ学生は訓練を完了する可能性が高いことが示されました。
研究2:スクリプス全国スペリング・ビー大会
目的:子どもたちが全国大会で成功する要因として、才能(IQ)とGRITを比較。
方法:参加者にGRITスケールを実施し、練習時間や大会結果との関係を分析。
結果:高いGRITスコアを持つ参加者は、より多くの練習時間を費やしており、それが結果として大会での高成績に繋がることが確認されました。
② 困難な時代を生き抜く力
経済や社会の変化が激しい現代では、不確実性や挫折が避けられません。
こうした時代を生き抜くためには、一時的な成果に満足するのではなく、長期的な目標を追求し続ける力が求められます。
GRITは、逆境を乗り越える回復力とも関連しています。
逆境に直面したとき、それを克服して前進する力が成功や成長をもたらします。
GRITを鍛えるための方法
GRITは先天的な特性ではなく、意識的に鍛えることが可能です。
以下に、GRITを高めるための具体的なステップを紹介します。
長期的な目標を設定する
GRITの基盤となるのは、明確な目標を持つことです。
特に、短期的な満足ではなく、長期的なビジョンを描くことが重要です。
1 ビジョンを明確化する
まず、自分が本当にやりたいことや、達成したい目標を考えましょう。
このとき、「SMARTゴール」のフレームワークを活用するのが効果的です。
Specific(具体的):明確で具体的な目標を設定する。
Measurable(測定可能):達成度を測れるようにする。
Achievable(達成可能):現実的な範囲で目指す。
Relevant(関連性がある):自分の価値観や興味と一致している。
Time-bound(期限を設ける):時間軸を設定する。
意味を見出す
目標を設定したら、その目標が自分にとってどれだけ重要であるかを考えます。
「なぜこれを達成したいのか?」を深掘りし、心から納得できる理由を見つけることが、GRITを高める第一歩です。
小さな成功体験を積み重ねる
大きな目標に向かう過程では、失敗や挫折を経験することも少なくありません。
そのため、モチベーションを保つためには、小さな成功体験を積み重ねることが重要です。
1 マイクロゴールを設定する
大きな目標を達成するためには、段階的な小さな目標を設定しましょう。
これにより、進捗を実感しやすくなります。
例:マラソンを完走したい場合、最初は5kmを走れるようになることを目指す。
2 ポジティブなフィードバックを与える
小さな成功を達成したとき、自分自身を褒めることも大切です。
また、周囲からのポジティブなフィードバックを受け取ることで、さらなる挑戦への意欲が高まります。
挫折に強くなるために
GRITを育てるためには、困難な状況に直面しても諦めない心を鍛えることが不可欠です。
1 失敗を学びに変える
失敗は避けられないものですが、それを「成長のチャンス」と捉える視点が重要です。
以下の方法で、失敗を次の成功の糧にしましょう。
・失敗の原因を具体的に分析する。
・改善点を見つけ、次の挑戦に活かす。
・成功者の多くが失敗を繰り返している事実を思い出す。
2 メンタルレジリエンスを鍛える
メンタルレジリエンスとは、逆境に対する耐性を指します。
これを鍛えることで、困難な状況でもポジティブな姿勢を保ちやすくなります。
瞑想やマインドフルネスを実践する。
自分の感情に向き合い、適切にコントロールする方法を学ぶことが有効です。
持続可能な習慣を作る
やり抜く力を育てるには、日々の行動が一貫していることが重要です。
そのため、持続可能な習慣を形成する方法を学びましょう。
1つの参考になる記事を紹介します。
① 習慣化のメカニズムを理解する
習慣は、トリガー(きっかけ) → 行動 → 報酬という3つの要素で成り立っています。
これを活用して新しい習慣を作りましょう。
トリガー:習慣の開始点となる行動や状況を設定する。
行動:実行する具体的なアクション。
報酬:行動の結果として得られる満足感。
② 少しずつ取り組む
無理のない範囲で習慣化を進めることがポイントです。
一度に大きな変化を求めるのではなく、少しずつ改善を積み重ねましょう。
例:毎日30分の運動を習慣化したい場合、最初は10分から始める。
情熱を燃やし続ける
GRITの中核となるのは「情熱」です。
情熱がなければ、粘り強さを持続することは難しいでしょう。
① 自分の興味を深掘りする
情熱を見つけるためには、自分が心から興味を持つ分野を探求することが大切です。
そのためには、次のようなステップを踏みましょう。
・過去の経験を振り返り、楽しかったことや達成感を得た活動を洗い出す。
・新しいことに挑戦し、興味の幅を広げる。
② バーンアウトを防ぐ
情熱を持ち続けるためには、心身の健康を保つことが重要です。
無理をしすぎると、バーンアウト(燃え尽き症候群)に陥る可能性があります。
・適度な休息を取る。
・趣味やリラクゼーションの時間を確保する。
周囲の環境を整える
GRITを育てるためには、自分を取り巻く環境を整えることも重要です。
① サポートネットワークを構築する
同じ目標を持つ仲間や、ポジティブな影響を与えてくれる人々との関係を築きましょう。
これにより、モチベーションを保ちやすくなります。
・コミュニティやグループに参加する。
・信頼できるメンターを見つける。
② ネガティブな影響を避ける
反対に、目標達成を妨げるような環境や人々から距離を置くことも必要です。
・批判的な意見に振り回されない。
・自分の価値観に反する活動を減らす。
GRITがもたらす影響
GRITは、個人の成長だけでなく、組織や社会全体にもポジティブな影響をもたらします。
① 個人の成功と成長
GRITを持つ人は、自分の目標に向けて努力を続けるため、自己成長や満足感を得やすくなります。
長期的な成功を手にするための重要なスキルです。
② 組織の成功
GRITを持つ社員が多い組織は、困難に直面しても柔軟に対応し、目標に向かって継続的に努力できます。
このような組織は、長期的な成果を出しやすくなります。
③ 社会的な変化
GRITを持つ人が増えることで、社会全体がより持続可能で創造的な方向に進む可能性があります。
特に教育やビジネスの分野では、GRITが新たな革新を生む原動力となります。
GRITの限界と批判
一方で、GRITには限界や批判もあります。
① バランスの問題
目標に固執しすぎることで、柔軟性を失い、他の重要なことを見落とすリスクがあります。
② 無理な期待の押し付け
GRITを過度に重視すると、他人に同じ粘り強さを求めすぎてしまい、プレッシャーを生むことがあります。
③ 環境要因の無視
GRITがあっても、環境や状況によって目標が達成できない場合もあります。
GRITだけで解決できない問題もある点に注意が必要です。
まとめ
GRITは、目標達成や成功の鍵となる重要な特性ですが、それを発揮するためには適切なバランスが求められます。
情熱と粘り強さを持ち、長期的な視点で努力を続けることで、個人や社会の成長に大きく貢献できるようになります。
自分自身のGRITを鍛え、目標に向かって一歩ずつ進んでいくことが、より充実した人生を築くための第一歩となります。