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【感情を動かす学びかた】脳の変容と学習法【神経心理学・認知神経科学シリーズ 4】

 

 

「暗記が苦手」は才能のせいではない。

 

神経心理学でわかる記憶の仕組みとトレーニング法

 

「短期記憶がすぐいっぱいになる人の脳の特徴」

 


第1章:はじめに  「すぐ忘れる」の正体とは?


第2章:短期記憶とは何か  神経心理学的視点から


第3章:ワーキングメモリのしくみと個人差


第4章:短期記憶と脳の構造  前頭前野頭頂葉との関係


第5章:短期記憶がすぐいっぱいになる人の具体的な特徴


第6章:短期記憶が苦手な人の一日 ― 日常例から理解する


第7章:短期記憶に関わる脳内神経伝達物質とホルモンの役割


第8章:情報の取捨選択と「記憶の混雑」問題


第9章:短期記憶の苦手さと「認知スタイル」の関係


第10章:脳の可塑性とワーキングメモリ訓練の可能性


第11章:日常生活に取り入れられるセルフサポート


第12章:教育・職場での支援と配慮


第13章:短期記憶の弱さとどう向き合うか

 

 

はじめに

 


 「何度読んでも覚えられない」「人の名前がどうしても出てこない」「暗記が本当に苦手」そんな言葉をよく耳にします。

 学生時代の勉強、社会人になってからの業務知識、あるいは日常のちょっとした用事に至るまで、「記憶」は私たちの生活のあらゆる場面に関わっています。

 そしてその一方で、多くの人が「記憶」に対して苦手意識を持っているのもまた事実です。

 なかには、「自分には暗記の才能がない」と決めつけてしまっている人もいるかもしれません。

 しかし、本当にそうなのでしょうか? 生まれつきの才能で記憶力が決まってしまうのなら、努力しても無駄なのでしょうか?

 

 実は、記憶に関する研究が進んだ今、私たちは「暗記の得手・不得手」を「才能」や「センス」だけでは説明できないことを知っています。

 代わりに、神経心理学認知神経科学は、「暗記が苦手」と感じる背後には脳の仕組みや心理的な影響、さらには学習の工夫不足が関係していることを明らかにしてきました。

 この記事では、「暗記が苦手」という悩みに対して、神経心理学認知神経科学の観点からアプローチし、才能の問題ではないということを丁寧に解説していきます。

 

たとえば

 

なぜ勉強した内容が試験直前になると頭から抜けてしまうのか?

なぜ買い物リストを持って行っても、必要なものを買い忘れるのか?

なぜ人の顔は覚えているのに名前だけが出てこないのか?

 

 このようなよくある事例を紐解きながら、「暗記が苦手」と感じる理由を、「脳の働き」×「記憶の科学」という視点で見ていきましょう。

 

 そして最後には、「覚えるのが苦手だった自分」を乗り越えられるヒントが見つかると思います。

 

 

第1章:そもそも「記憶」とは何か?

記憶の種類と脳内メカニズム

 


 「記憶」と一口に言っても、実はその中身は非常に複雑です。

 脳の中ではさまざまな種類の記憶が、異なる仕組みやルートを使って処理されています。

 この章では、まず「記憶とはそもそも何か?」を理解することから始めましょう。

 

① 記憶の基本プロセス:符号化・保持・想起


 記憶は一般的に、次の3つの段階で構成されています。

 

符号化:情報を脳が理解できる形に変換する過程です。たとえば、目で見た文章を意味ある言葉として理解する、耳で聞いた話を音としてだけでなく意味として受け取る、などがこれにあたります。

 

保持:符号化された情報を、短期間または長期間にわたって保存するプロセスです。情報はワーキングメモリ(短期的な記憶)を経由して、長期記憶へと保存されます。

 

想起:保存されている情報を必要なときに引き出すプロセスです。名前を呼ぶ、知識を思い出す、予定を確認するなど、記憶の実用段階にあたります。

 

 この3つのいずれかの段階で問題が起こると、「覚えられない」「思い出せない」という現象につながります。

 

② 記憶の分類:宣言的記憶と非宣言的記憶


 記憶には大きく分けて2つのタイプがあります。

 

宣言的記憶(陳述記憶)


 自分の意志で言葉にして説明できる記憶のことです。

 さらに以下の2種類に分けられます。

 

意味記憶:知識や情報に関する記憶。たとえば、「富士山の高さは3776m」「犬は哺乳類」などの一般的な事実。

エピソード記憶:自分の経験に基づく記憶。「昨日の夜ご飯はカレーだった」「去年の旅行は京都だった」など、時間や場所を伴う記憶。

 

● 非宣言的記憶(手続き記憶)


 意識しなくても自然に使われる記憶で、言葉にしにくい記憶です。

 

手続き記憶:自転車の乗り方やタイピングの方法など、身体にしみついたスキルのような記憶です。覚えたことを意識せずに使えるのが特徴です。

 

③ 記憶と脳の部位:どこで何が処理される?


 記憶は脳全体で処理されていますが、特に重要な部位がいくつかあります。

 

● 海馬
 記憶の「一時保管所」と言われる部分です。新しい記憶(特にエピソード記憶)を形成するうえで不可欠です。海馬が損傷すると、新しい記憶をうまく作れなくなります。

 

前頭前野
 思考や注意のコントロール、記憶の検索に関係します。「どこに何を保存したか」を管理する「司令塔」のような働きを担っています。

 

扁桃体
感情と結びついた記憶に深く関わります。恐怖や喜びなどの感情が強い体験は記憶に残りやすいですが、それは扁桃体が活発に働くからです。

 

④ 【具体例】地図を覚えるのが得意な人と

迷子になる人の違い


 たとえば、「地図を見てすぐに覚えられる人」と「同じ道を何度通っても覚えられない人」がいます。

 この違いは、「空間記憶」という、場所やルートを記憶する脳の機能に関係しています。

 ロンドンのタクシー運転手を対象にした有名な研究では、長年ルートを覚えてきたベテランドライバーの海馬後部が、一般の人よりも大きくなっていることが発見されました。

 これは脳が経験によって形を変える「神経可塑性」を示す好例です。

 つまり、道を覚えるのが得意かどうかは、「才能」というよりも「脳の使い方」によって決まるのです。

 

⑤ 「覚える力」は一つではない


 このように、記憶には種類があり、それぞれが異なるメカニズムと脳領域で処理されています。

 だからこそ、「暗記が苦手」と一口に言っても、その背後には

 

符号化の問題(注意力の欠如)

保持の問題(繰り返し不足)

想起の問題(検索戦略の未熟さ)

 

 といった、いくつもの要因が潜んでいる可能性があります。

 

 大切なのは、「記憶力」は一枚岩の「才能」ではなく、複数のスキルの集合体であるという認識です。

 そして、それぞれのスキルは後からでも訓練可能です。

 

 

第2章:なぜ「暗記」が苦手に感じるのか?

脳の個性と環境の影響

 


 「暗記が苦手」と感じている人の多くは、「記憶力がもともと弱い」「人より頭が悪い」といった自己評価を持ってしまいがちです。

 しかし、神経心理学認知神経科学の視点から見ると、記憶がうまく働かない原因は「脳の個性」や「環境要因」に深く結びついています。

 

① 集中できないと記憶できない

注意と記憶の深い関係


 記憶の第一段階である「符号化」は、外からの情報を脳内に取り込むプロセスです。

 このときに重要なのが「注意」です。

 言い換えれば、集中していない状態では、そもそも情報が脳に入っていかないのです。

 

【日常の例】


 たとえば、テレビを見ながら教科書を読んでいた高校生が、「全然頭に入らなかった」と感じるのは、まさに注意が分散していたからです。

 神経科学の研究でも、注意が視覚や聴覚の情報処理における「フィルター」の役割を果たしていることが示されています。

 つまり、何に注意を向けるかが、記憶の質を左右します。

 

② 感情状態が記憶にブレーキをかける


 ストレスや不安、緊張といった感情は、記憶に強い影響を与えます。

 扁桃体という脳の感情処理部位は、記憶形成にも関与していますが、過剰なストレスがかかると扁桃体と海馬の連携がうまくいかず、記憶力が低下します。

 

【実例】


 試験前に極度に緊張してしまう高校生が「家では覚えていたのに、本番で全部忘れた」ということがありますが、これは海馬の働きがストレスで制限された状態ともいえます。

 また、不安やうつ状態にあると前頭前野の活動が低下し、記憶検索(想起)にも支障をきたします。

 

③ 遺伝よりも「学習環境」がカギになる


 「記憶力は生まれつき決まっている」と考える人は多いですが、実際には遺伝よりも環境要因の方がはるかに大きな影響を持つことがわかっています。

 ある双子研究では、記憶力の個人差のうち、およそ70%以上が環境要因(育った家庭、教育法、学習スタイル)によるものだと報告されています。

 

【具体例】


 A君とB君が同じ成績でも、A君はフラッシュカードや図を多用した勉強法をしており、B君はひたすら教科書を読むだけだったとします。

 脳の負荷や記憶の深さは明らかに異なり、時間が経つほど差が広がっていきます。

 

④ 脳の「使い方」のクセが記憶に差を生む


 私たちの脳には、もともと「得意な情報処理のスタイル」があります。たとえば

 

視覚優位型(目で見て覚えるのが得意)

聴覚優位型(耳で聞いた方が記憶に残る)

身体運動型(書く・動くことで記憶する)

 

 これらは脳のネットワークのつながり方や感覚処理の得意不得意に由来しています。

 自分に合ったスタイルを知らずに、苦手な方法ばかりで覚えようとすると、記憶はうまくいかなくなります。

 

【例:試験勉強での違い】


 ある大学生が、英単語を「見て覚える」のが苦手で、「書いて覚える」方法に切り替えたところ、記憶効率が格段に上がったという事例もあります。

 これは運動感覚と記憶の結びつきをうまく活用した例です。

 

⑤ 「記憶の苦手さ」は、日常的な疲労や脳疲労とも関係


 日々の生活において、睡眠不足や過労が続くと、前頭前野の活動が低下し、「集中力が続かない」「同じところを何度も読み返してしまう」といった状態になります。

 これは一時的な記憶障害に似た状態で、誰でも起こりうる脳の自然な反応です。

 

【例:疲れて覚えられない】


 「会社から帰宅して、疲れた状態で資格の勉強をしようとしても、全然頭に入ってこない」という経験はありませんか?

 それは記憶力の問題ではなく、脳が「休息モード」に入ってしまっているからなのです。

 

⑥ まとめ:「暗記が苦手」は「自分の責任」ではない


 ここまでの話をまとめると、「暗記が苦手」という感覚の多くは、次のような複数の要因によって説明できます。

 

・注意不足や集中力の問題

・感情ストレスの影響

・自分に合わない学習スタイルの継続

・環境的・習慣的な要因(睡眠、疲労、学習機会など)

 

 そして何よりも重要なのは、「それはあなたの才能のせいではない」という事実です。

 記憶力は、才能ではなく、習慣や方法論、そして感情と深く結びついた「鍛えられる力」です。

 

 

第3章:「才能」ではなく「戦略」の問題

効果的な記憶の仕方とは

 


 「暗記が苦手」と感じている人の多くは、実は「記憶のメカニズムに合っていない覚え方」をしているだけです。

 脳はランダムに情報を蓄えるのではなく、ある法則や仕組みに従って情報を記憶していきます。

 つまり、記憶の仕組みに合った「戦略」を用いれば、誰でも記憶力は飛躍的に向上します。

 この章では、神経心理学認知神経科学の研究成果に基づき、科学的に実証されている記憶戦略をご紹介します。

 

① 「意味のない暗記」は脳が拒否する


 まず知っておきたいのは、人間の脳は「無意味な情報」を長期的に保持するのが非常に苦手だということです。

 ランダムな数字の羅列や、文脈のない単語リストは、海馬にとって「重要でないもの」と判断され、すぐに忘却されてしまいます。

 

【実例】


 「RYKX49B」といったランダムな文字列を5秒で覚えようとしてもほとんどの人が失敗しますが、「NHK2025」のような、既知の構造や文脈を含むものならすぐに覚えられます。

 これは意味づけの力です。

 

② 「関連づけ」で記憶を強化する──連想ネットワークの活用


 記憶は、孤立した点としてではなく、「関連づけのネットワーク」として保存されています。

 新しい情報を、すでに知っている知識と結びつけること(関連づけ)が記憶定着にとって最も重要です。

 

【日常の例】


 歴史の年号を覚えるとき、「鎌倉幕府の成立=イイクニつくろう(1192)」のように、語呂合わせやイメージを使うのも、関連づけの一種です。

 認知心理学では、このような意味づけによる記憶強化を「深い処理」と呼び、単純な繰り返しよりも圧倒的に長期記憶に残りやすいとされています。

 

③ 「文脈」があると記憶が定着する

エピソード記憶の力


 脳は、「出来事」「状況」「感情」といった背景情報とともに記憶を保存します。

 これがエピソード記憶の特徴です。

 

【具体例】


 英単語「apple」はなかなか覚えられないのに、「昨日スーパーでリンゴを5個買った」といった体験は記憶に残りやすいのは、文脈(コンテクスト)と感情が伴っているからです。

 学習時に「なぜこれが重要なのか」「いつどこで使いそうか」という問いを自分に投げかけることで、記憶がエピソード化され、再生されやすくなります。

 

④ 「想起の練習」が記憶を定着させる

テスト効果


 「思い出そうとする」こと自体が、記憶の強化につながることがわかっています。

 これをテスト効果と呼びます。

 

【実験例】


 心理学者ロディガーとカープィックの研究によれば、同じ時間をかけて「繰り返し読む」よりも、「クイズ形式で何度も思い出す」ほうが、1週間後の記憶保持率は高くなりました。

 

【応用法】


・覚えた内容を自分で問題にして解いてみる

・「誰かに説明するつもりで」思い出す

・ホワイトボードやメモ帳に「空で再現」してみる

 

⑤ マルチモーダル記憶:

視覚・聴覚・身体感覚をフル活用


 記憶の定着は、複数の感覚を使ったときに最も強固になります。

 たとえば、

 

目で見る(視覚)

声に出す(聴覚+運動)

書く(運動+視覚)

手振りを使う(身体感覚)

 

 これらを組み合わせることで、複数の神経ネットワークが活性化し、記憶の「入り口」が増えます。

 これは「エンコーディングの多様性」として知られています。

 

【日常での応用】


単語帳は声に出しながら読む

覚えたい文章は手で何度も書いてみる

頭の中で図式化しながら記憶する

覚えた内容を歩きながら反復する

 

⑥ 時間をずらして学ぶ「分散学習」こそ最強の記憶法

 

 一夜漬けのように、短時間で詰め込む学習は「集中学習」と呼ばれますが、長期記憶への定着には不向きです。

これに対し、時間を空けて繰り返す「分散学習」は、記憶科学における最も信頼性の高い学習法のひとつです。

 

【活用法】


覚えた翌日、3日後、1週間後、1か月後…と少しずつ間隔を空けて復習する

アプリ(Ankiなど)を使ってスケジュール管理する

 

⑦ まとめ:記憶力は「技術」

 

 記憶の苦手さは、「脳の使い方を知らないこと」に起因することがほとんどです。

 そして、記憶力とは生まれつきの才能はなく、後から身につけることができる戦略や技術です。

 

 以下の要素を取り入れるだけでも、記憶力は確実に改善されていきます。


意味づけ:単語や情報に「意味」を持たせる
関連づけ:既知の情報と結びつける
文脈化:使用場面や体験と結びつける
想起練習:思い出す行為で定着が進む
マルチ感覚:複数の感覚を使って覚える
分散復習:時間をずらして定期的に復習

 

 こうした戦略をどのように日常生活に組み込んでいくか、次章で解説を行います。

 


第4章:日常生活に活かす!記憶力を高める習慣とコツ

 


 ここまでで、「記憶力は才能ではなく、脳の仕組みに合った方法と習慣によって伸ばせる能力である」ことを見てきました。

 この章では、神経心理学認知神経科学の知見をもとに、日常の中で記憶力を高めるための具体的な習慣や工夫を紹介します。

 

① 睡眠は最強の記憶強化剤


 記憶は、覚えた瞬間だけでなく、「寝ている間」に整理・定着されます。これは「記憶の固定化」と呼ばれ、特に深いノンレム睡眠中に起こります。

 

【科学的根拠】


睡眠中に海馬と新皮質が連携し、短期記憶が長期記憶に移される。

睡眠不足は海馬の活動を鈍らせ、学習効果を著しく低下させる。

 

【習慣のポイント】


記憶したい内容は「寝る前に軽く復習」しておく

睡眠時間は最低でも6〜7時間を確保する

寝る直前はスマホではなく紙のノートで軽く復習を行う

 

② 運動は記憶のブースター


 有酸素運動(ウォーキングや軽いジョギング)は、海馬の血流を増加させ、神経可塑性を高めることがわかっています。

 特に運動後の学習は記憶定着に効果的です。

 

【実生活への応用】


勉強の前に20分のウォーキングを取り入れる

通勤・通学を徒歩にして、記憶の下地作りをする

暗記したい内容を「歩きながら口に出す」と覚えやすくなる(身体運動との統合)

 

③ 「感情のある学び」が記憶を定着させる


 先述の通り、扁桃体が関与する感情は記憶形成に大きく影響します。

 感情を動かした学びは忘れにくいのです。

 

【具体例】


「驚き」や「笑い」がある教材やエピソードは長期記憶に残りやすい

感情を込めて読む、話す、表現することで記憶が強化される

 

【工夫】


英語を覚えるときは、映画や好きな俳優のセリフを使う

歴史の出来事に「もし自分がその場にいたら」と感情移入する

難しい言葉も「誰かに教えてあげるつもりで」説明してみる

 

④ 「ながら学習」をやめるだけで記憶は激変する


 人間の脳はマルチタスクに向いていません。スマホを見ながらの学習や、音楽を聴きながらの暗記は、注意資源が分散され、記憶の質を著しく下げます。

 

【対策】


スマホの通知は完全オフにする

短時間でも「完全に集中した時間」を意識的に作る(例:ポモドーロ・テクニック)

ノイズキャンセリングイヤホンや静かな場所を活用する

 

⑤ 「習慣化」の力を侮ってはいけない


 記憶力を高めるには、学習内容だけでなく、学習の「習慣」そのものがカギになります。

 

【習慣化のポイント】


毎日「同じ時間」「同じ場所」で学習する(脳が「その時間=記憶タイム」と学習)

1回15分でも毎日続ける(分散学習と記憶の維持に効果)

小さな目標を達成することでドーパミンが分泌され、学習が楽しくなる

 

 

第5章:「記憶が苦手」は過去の話になる

誰でもできる記憶力の再構築

 


 ここまでで、「暗記が苦手」という悩みの多くは、脳の仕組みに合わない方法や環境に原因があることを確認してきました。

 

 この章では、これまでの内容をまとめながら、「記憶力を高めるための個別設計」の考え方を紹介します。

 

① 自分の記憶スタイルを知る


 人によって得意な記憶のスタイルは違います。

 

Aタイプ(視覚)


このタイプの方は、目で見ることによって情報を理解し、記憶するのが得意です。単語を覚える際に「書いて覚える」のがしっくりきたり、学習する時には「図表や絵を使う」と内容が頭に入りやすい傾向があります。

 

Bタイプ(聴覚)


Bタイプの方は、耳から入る情報に強く反応します。単語を覚えるのに「音読する」のが効果的だと感じたり、「リスニングや講義音声」を聴くことで効率的に学習できるでしょう。

 

Cタイプ(身体)


Cタイプの方は、体を動かしたり、実際に体験することを通して学ぶのが得意です。単語を覚える時に「手で書いたり、歩きながら覚える」のが集中できると感じたり、「実践したり、手を動かしながら書く」ことで知識が定着しやすいでしょう。

 

 自分がどのタイプであるか確認をしておくことで、効率的な記憶を行うことができます。

 

② 「忘れること」は脳の正常な働き


 記憶できないことに悩む人ほど、「忘れること=失敗」と捉えがちですが、実際には脳はあえて忘れることで、必要な情報を効率よく取り出せるようにしているのです。

 

 これは「忘却曲線」(エビングハウス)とも関係しており、忘れることを前提にした「復習設計」が鍵です。

 

③ 記憶の再設計は何歳からでも可能


 脳の可塑性は年齢を問わず存在します。

 学習や訓練によって、神経細胞の接続(シナプス)や情報の流れを変えることができます。

 

【研究例】


60代から第二言語を始めたグループでも、3ヶ月で海馬の体積が増加する

記憶訓練を受けた高齢者は、脳活動パターンの効率が改善される

 

 つまり、「今さら覚えられない」は脳科学的には誤解であり、むしろ今からでも脳は変わることができます。

 

④ 忘れたくないなら「人に教える」


 最後に、最も効果的な記憶法の一つとして、「他人に教えるつもりで学ぶ(=ティーチング学習)」という方法があります。

 これは、アウトプット前提で学習を設計することで、想起・意味づけ・文脈化が一度に行えるからです。

 

【実践法】


学んだ内容をノートに「自分の言葉」で要約する

ブログやSNSで発信してみる

家族や友人に簡単に説明する機会を作る

 

 

最終章:「記憶力に自信がないあなたへ」

あなたの脳は、変われる

 


 「暗記が苦手」「自分は覚えるのが遅い」と悩んでいる人へ、ここまでの内容を一言でまとめるとこうなります。

 

『記憶力とは、「生まれ持った資質」ではなく、「脳の使い方を工夫すれば誰でも向上できる技術」である。』

 

 そして、記憶の苦手さを克服するために必要なのは、「がんばること」ではなく、「合ったやり方を知ること」、そして「続けられる習慣を作ること」です。

 

最後に、この記事の要点を箇条書きでまとめておきます。

 

記憶力を伸ばす9つのポイント

 

・集中して覚える(注意が最初の入口)

・意味づけをする(文脈や体験と結びつける)

・関連づける(既存知識とのつながりをつくる)

・感情を動かす(楽しい・面白い学びを)

・繰り返し思い出す(想起による強化)

・マルチ感覚で覚える(見る・聞く・書く・話す)

・復習間隔を空ける(分散学習)

・良質な睡眠と運動を意識する

・誰かに教えるつもりで学ぶ

 

 「暗記が苦手」という言葉が、あなたの口癖からいつか消える日が来ることを、心から願っています。

 

 あなたの脳は、今日から変われます。

 

 



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